パッケージデザインの役割、それはいかにして中身を伝えるか?

ワインボトルのパッケージデザインについて図説する亀谷 ※ワインボトルを例にパッケージデザインについて図説する亀谷

前回のブログでは、企業のコンセプトを掲げるシンボルとなる「ロゴデザイン」のお話をさせていただきました。
今回は、そのコンセプトに基づいた、お客様や消費者に届けたい物や考えを伝えるための役割を担う「パッケージデザイン」についてひもといて参りましょう。

自然界にある最高によくできたパッケージ

パッケージのデザインの前に、先ずは何かを包むパッケージそのものを解説します。サンフランシスコのアートスクールで学んだのは、パッケージとは「Vehicle = ビークル」であるということ。今もその考えは私の根っこになっていて、パッケージとは生みの親というか生産者から社会や使用者に何かを届ける乗り物ということなんだと捉えています。それも、輸送中や持ち帰りの衝撃に耐え、なおかつバイ菌の侵入から中身を守ってくれるとか、いろんな機能を備えています。

ところで、最高によくできたパッケージってご存知ですか? 自然界にあるんですよ。人類の誕生前からあって、今もって現役なパッケージが。感の良い人はお気づきかもしれませんが、それは卵です。

中身を守るためにあれほど完成された形はありません。何故って巣の中で、親鳥の足の間で割れないんですよ。更に通気性もあります。だから、中でちゃんと呼吸ができる。ゴロゴロやっても割れないけれど、ある1点に衝撃が走ると割れる。でもそれが割れないと中から雛が出てこられないわけですから。

内側から雛の弱々しいくちばしでボンとやったら、パキッと割れるというのは、生産者である親鳥からこの世に子供を届ける完成体ですよね。何億年もかけて生み出された最高の工学的パッケージだと思います。

話を現代に戻しましょう。お伝えしたいのは、パッケージとグラフィックデザイン。これが一体になったものは何かと言うと、「中に詰まった良いものや考えを運ぶ乗り物」ということです。

パッケージデザインは、あなたのコンセプトを運ぶものと言ってもいいかな。おまけに他社との差異化もできる。運ぶだけではなくて、お客様、消費者に発見して手に取ってもらわなくてはいけないわけですから、発見してもらうためにもデザインが必要だということになります。つまりパッケージデザインは「運んで発見してもらう乗り物」ですね。

パッケージデザインが届けるもの。もちろん中身、そしてイズム。

まず、運ぶという観点から考えてみましょう。

さっき近くのカフェでコーヒーを買ってきたのですが、決して大きなサイズではないのに600円もしました。まあ、600円なりに美味しいですし、中身をきちんと保護し、私がこうやって持って帰ってこられるような運ぶものとして、ちゃんとデザインされている。

中身にどういうこだわりがあるのかは私には分からないけれど、どうやらちょっと厨房を覗いた感じでは、作っていらっしゃる方や従業員の方々を見ていると、いい感じのお店だなあと思いましたし、親しみが持てたんです。

組織で一生懸命に何かを作っている。コーヒーひとつにも、原材料はもちろんのこと、その淹れ方、ドリップの方法、機械を使っても、やはりそれにこだわっていらっしゃる。

そうしたものの考え方がこの中に全部詰まってるわけですよ。物体だけではなくて。
だからこそ美味しいんですね。

美味しいものをきちんと美味しく届けたいし、飲んだ人に何となく、「このお店いいじゃない」と思わせるのは、ほら前にもお話したイズムがどこか伝わってきているんです。つまり、良い品と良い考え方を運ぶものがパッケージデザインということです。

私は宣伝会議さんで「売れるパッケージデザイン」という講座も担当させていただいてますが、その時に必ずお伝えするのが、まず中身が1番、ということ。当然ですが、それがなければ売れない。だから中身なんです。パッケージはそれを包んでいるものですから中身がスカスカだと、意味がないんです。

でも、中身が良いのに全然上手くないデザインが世の中には多すぎるとも思っています。同時に、デザインだけが先走って、中身がおろそかなケースも散見されます。なぜ、みんなちょうど良い塩梅にできないのかな〜と感じます。

それは、生産者のマインドと、デザイナーの誠意に原因があります。生産者の視野が狭いと、業界で慣例となっているデザインから離れられないので、ありきたりのデザインを求めます。デザイナーの誠意が足りないと、言われたままをお絵描きするから、ありきたりのジレンマから離脱できません。

生産者とデザイナーが独善的に振る舞うと、見込み客の期待から大きく離れた異次元のデザインで全く売れないということになります。なぜ、ちょうど良い塩梅にならないかの原因です。ならばどうしたら良いのか?のお話を続けます。

勝負は0.3秒の壁を越えて、お客様の足を止められるかどうか。

お客様に伝えるために重要なこと。それはどんな分野にも言えることですが、世の中にこんなにもたくさんの商品が存在する中で、まずお客様に発見してもらうこと。これが第一歩です。

商品がどこで売られているかにも左右されますが、おおざっぱに言うと、どの場合でも大体0.3秒で発見してもらわないと、お客様の手に取っていただけません。0.3秒の壁を越えて、お客様の足を止めること。これがパッケージをデザインする上での基本中の基本です。

足を止めていただくということは、他と違うデザインをしなければいけないですよね。同じデザインをしていたのでは、足を止めてもらえないでしょうから。ある意味、もし足を止めてもらえたとしたら、どれを選んでいいか分からないから悩んだ、という状態ですよね。

そこで悩んでいただけるならいいけれど、消費者として我が身を振り返るなら、私は悩みたくないです、お店で。何を買っていいかわからなくて漠然とお店に訪れた、けれども食料は必要だ、と思った時でさえ悩みたくないですね。(笑) 私ならできるだけ短い時間で、効率よくショッピングしたいです。

お土産などもそうだと思うんです。本当に色々なところにお仕事で出張に行かせていただくのですが、お土産屋さんは必ず見ますね。もし時間が許せば地元のスーパーにも行くようにしています。スーパーマーケットほど面白いところはないなぁと私は思っていて、ある意味自分にとってはおもちゃ屋さんですね。色々なものがある。

そして、それぞれのパッケージがものすごく創意工夫を凝らしている。凝ったデザインもあれば、すごくシンプルなものもある。一見雑に見えて、自分がもしデザインするとしたら、ああもう一つもいじるところはないな、と思うものもあります。でも、もったいないなぁと思うことも結構あります。これは結構あります。(笑)

パッケージデザインからその組織の様子が伝わる?

お土産とか日用品に限らず色々なパッケージデザインを見る中で、0.3秒を超える基本中の基本をきちんと押さえたの? とか、ターゲットは誰なの?とか気になってしまうことが、やはりあります。

そして、そもそも自分たちのコンセプトに立脚してるの?それはちゃんと明文化した?あるいは文章にしてなくても、その組織の中で明確にしてる?といったことを投げかけたくなったりもします。

私はワイナリーの醸造家である家族とお付き合いするところからブランディングを始めた者ですから、デザインを見ると何となくその組織のことがわかるんですよね。ああ、ガタついて混乱しているのかなぁとか、すごく強い意志を持っていらっしゃるなぁとか。それはパッケージデザインからもロゴからもなんとなく感じます。この業界には長いこと居ますので。

とはいえ、「売れるパッケージをデザインしてください」という乱暴な投げかけは無しですよ。それは本当に困ります。占い師ではないし、皆さんのこと、そして呪縛となっている慣習、業界のポテンシャルを知らないと何もできません。一緒に悩み、共に考えましょうと言うのが私のスタイルです。

さて次回はいよいよ『シーズン2、亀谷がひもとくブランディング』も最終回となります。

今まで何をどうやって伝えるかというお話をして参りましたが、「伝える」だけでは足りません。伝えたいことが「伝わる」ことが最も重要なのです。最終回は「コミュニケーション」のお話です。

 

亀谷が講師を務める宣伝会議様のオンライン講座はこちらから↓
宣伝会議「食品業界のためのパッケージデザイン・ディレクション基礎講座」