ロゴは家紋だ! それはお家の旗印となるもの

ブランディングの手法・本質について、「ブランド戦略」「ネーミング」と順番にひもといて参りましたが、今回は「ロゴデザイン」のお話です。

ロゴは家紋だ! それはお家の旗印となるもの

ここで、「ブランド戦略をしないとネーミングはしてもらえないの?」「ネーミングをしないとロゴデザインはできないの?」と思われた方もいらっしゃるかも知れませんが、勿論ネーミングを飛ばして単体でロゴデザインをお手伝いすることもあります。

いずれにせよ、弊社で明文化をお手伝したかどうかにかかわらず、大事なポイントはコンセプトです。その企業、商品、サービスのコンセプトは何ですか? ということ。もしそのコンセプト作りに立ち会っていなければ、ヒアリングして我々の中にしっかりと理解されるまで何度でも現地に伺い、お話を聞かせていただきます。そうしたうえで、ロゴのデザインをしていきます。

言うなればロゴは家紋? すなわちお家(おいえ)のシンボル

ロゴは家紋だ! というと、何を言ってるんだ? と言われてしまいそうですね。(笑) しかしながら家紋とお伝えした理由は明確にあるんです。家紋というくらいですから、お家のシンボルなわけです。昔、武士や商人がお家の印として掲げていたものです。

このお家、ある意味コーポレーションですよね。縁や所縁はあるとしても、使用人も含め、血のつながりのない人たちが集まっているのですから。そんなお家がどんなキャラで、何を目指しているのか、お館様は一体何を考えているのか。多種多様な人々の夢や感情が集まってお家そのものを盛り上げていくぞ! という印が家紋なのです。

ロゴも同じ旗印と言えます。家紋であり、旗印。大河ドラマを思い出してみてください。馬に乗った将軍や幹部だけではなくて、槍を持った一兵卒が旗を立てているでしょう? 自分の兵隊はどこに行った? とか、自分はあなたの味方ですよ、とわかるためにつけているのが一つ。要するにファンクションな理由が一つあるのですが、じつはエモーショナルな理由がものすごく強く、彼らは独自の考え方、コンセプトをもとに、この戦に勝って世の中を平定するぞとか、領土を守るぞとか、手に入れるぞとか言ってるわけです。

そう考えると、やはりビジネスは戦であり、戦略とかいう物騒な言葉が当たり前に語られる所以だと思います。

今まさに挑戦していこうという組織にこそ必要な旗印

「ある意味ビジネスは戦だ!」なんて言うと、まるで80年代の古い人間みたいですね。(笑)

この戦い、自分との闘いもあるわけですよね。自分たちの目指そうとしていることにくじけそうになったりしても、自分たちの家紋が象徴するあらゆるコンセプトを実現するためにみんなで頑張ろう、というのがロゴ、つまり旗印の役割なのではないかなと思うんです。そういう意味では、ブランド戦略というのは、私は他者と争う「戦い」よりも自分たちのレベルを上げる「闘い」の方がイメージに合っている気がします。

つまりロゴは、何か完成しきった組織の印ではないということです。今まさに挑戦していこうという組織が持つものが旗印なのです。ここを僕はいつも重要視しています。

時々、「今社内の改革を進めており、いろいろな痛みを伴いつつやっているので、落ち着いたらロゴを作りたい」と仰るお客様がいらっしゃるのですが、そうではないんです。どこまでいっても落ち着かないです絶対に。私も無理にはお勧めしませんし、ロゴを必ず直すべきだとは、どのお客様にも申し上げません。しかし、「落ち着かないですよ」とはお伝えします。

そしてこうお伝えします。「ある意味、挑戦の繰り返しになるでしょう。みんなを引っ張って行くために、新体制の旗印としてロゴを掲げてみませんか?」と。改革や新体制に対して社員がピンと来ていないからこそ必要なわけで、みんながついてきた後にシンボルを掲げようと思っても、恐らくそういう時は来ないでしょうし、求心力が下がってしまいます。戦の後に家紋や旗印を掲げる将軍はいない、というのが私の考えです。

現状ではなくて、ここへ向かって行くよ、というのがロゴだと思います。端的に言うと、ロゴとスローガンが必要ですね。

例えば織田信長の「天下布武」。みんなスローガンを持ってるんですね。

お家には、何を信じているかを示すシンボル的な家紋と、それを端的な文章にしたスローガンがセットになっているんです。これ全く変わっていないですよね、今も昔も。

スローガンとは、人々が唱えやすいようコンセプトを端的に短くしたもの

企業理念は、ものすごく言葉を絞って端的にしている抽象概念であり憲法のようなものなのですが、それなりに長文になります。

スローガンは、人々が唱えやすいようにコンセプトを短くし、更に1行で、もしくは3~4文字で作ります。

「think different」って有名ですよね、アップルの。think differentに凝縮されたアップルの企業コンセプト。スローガンなのか、キャッチコピーなのか、彼らの企業理念は公にされていないのですが、イズムはしっかり残っています。(以下動画、ご参照ください)

「think different」

スティーブ・ジョブズが代理店と共にプロデュース。アップルが一体何者であるか? ということを、ロゴと動画とスローガンで端的に表して、そこにまっしぐらに進んで行ったのです。

「think different」。日本語では決して訳していないんです。じつは、これは英文としては間違ってるんですね。正しくは「think differently」なんです。違う風に考えよう。

ではなぜdifferentで止めたのか。違う風にではなくて、違うことを考えよう。つまり、違うことをしよう! と言っている。行動するにはまず考える、thinkするところから、というところだと私は理解しています。

なぜそう言ったのか。その時の競合状況を鑑みれば、やはり彼らはIBMに対して、もしくはWindowsに対しての反旗を翻したということなのだろうと推察します。

コンピューターをガジェットと言ったのはアップルなんです。今はもう、みなさんパーソナルコンピューターを略してPCと仰いますけど、今やPCにはグラフィックアイコンがあって、ごみ箱があって、仮想の空間、オフィスがここにあるわけですよ、この画面の中に。

でも以前の世界は、全然そうではなくて、全部数式を打ち込んでいたわけです。ですから専門家や特異な者たちしかいじれなかった。そういう状態がある程度続いた中でアップルが考えたのは、コンピューターをコンピューターとして使うのは良くない、これはある意味おもちゃだと考えた方が面白い、だからこれを使ってなにをするかだよね、ということでした。

PCに計算させることが目的ではなくて、「計算させた先で何がしたいの? それは多分、人それぞれ違うよね? そういう玩具にしようよ、ガジェットにしよう」というのが、反体制とミックスしてthink differentに全部込められているのです。

このことは、マーケットに宣言した以上に、実は社員への宣言に重きをおいているんじゃないかと思います。つまりアップルとは何者ぞ、と。心のどこかで自社がしようとしていることを信じていない社員に対して「闘う」ことを鼓舞することが大事に感じたんじゃないでしょうか。

ロゴからちょっとスピンオフしてthink differentにまつわるお話です。スローガン、その象徴となるものの一例でした。

ロゴデザインをお手伝いしてきて思うこと

ロゴが変わるというのは大変なことですよね。掲げる旗印が変わるわけですから。当然、意識も変わってくるでしょう。ロゴは私たちデザイナーがデザインしていますが、ロゴを変える時にお目にかかる社長、CEO、組織の代表の方々の美意識のすごさにはいつも驚かされます。

自分のお家の家紋を掲げて何かにチャレンジして行く、組織の改革かもしれないし、世の中に対するリノベーションの提供かもしれない。それを強く思っていらっしゃる社長であればある程、美意識が高い方が多いことに驚かされます。本当に色々なものを見ていらっしゃるんです。デザインもよくご存じですし、良い絵もたくさん観ていらっしゃる。音楽に精通されている方や、骨董に厳しい目をお持ちの目利きの方もいらっしゃる。

ですから一緒に作っているという感覚が私にはありますね、そういう方々と。逆に、自分はデザインのセンスがないとか、わからないとかおっしゃる社長さんには、僕は出会ったことがないですね。

やはりトップに立つ方々は総じて美意識に対する自信、自分のゆるぎない知恵や知識、信念をお持ちだなと思います。ですからそれを表現したいなとも思うのです。

もちろん社長さんだけのためにやるわけではありません。社長さんはいつかは交代されるわけですから。やはり社員の方々、お家を構成している方々の意見もじっくりと聞かせていただくことは重要です。それがワークショップを行う意義ですよね。

さて、次回はパッケージデザインのお話です。自然界にある最高によくできたパッケージのお話から、パッケージの役割、パッケージデザインに求められるポイントなどについてひもといて参ります。