ネーミングは商標が取れてこそ!

9月よりスタートしました『シーズン2、亀谷がひもとくブランディング』。前回までは「ブランド戦略」についてお話させていただきました。今回はネーミングについて抑えておきたいポイントについてのお話です。

ネーミングは商標が取れてこそ!

ネーミングにおいて重要なポイントは、まず商標を取ること

素敵な名前、世の中にたくさんありますよね。

じつは商標が取れてこそのネーミングなのですが、日本ではあまり商標のことを意識せずに進めていらっしゃる方が意外にも多いようです。

ある意味、訴訟大国家であるアメリカから帰ってきた私は、商標を取るのは当たり前のことと思っていました。ですから帰国当初、商標なんか後でどうにかなるんじゃないの? という雰囲気があったことは衝撃的でした。2000年以前の日本全体がそういうインテレクチュアルプロパティ(知的財産)に対して、今ほど注意を払っていなかったように思います。

商標が取れずば、後からはどうにもならないと知るべし

グローバル化が言われ始めてからでしょうか。急に知的財産、商標はどうなっているんだ、ということが言われるようになりました。

しかしながら、何故かネーミングをする時には後でどうにかなるというような風潮が未だに残っているような気がします。

私たちは全くそうは思っていなくて、最初から商標を取りに行くということを考えてやっています。商標が取れないと何がいけないのか。商標があれば、びくびくせずに安心して商売ができるんです。

例えば訴訟を起こされて、5年間使ってはいけない商標で商売をしていたら、その5年分を請求されかねないわけです。そんなことにびくびくするくらいなら、最初からきちんとやっておきましょう、ということです。

商標をクリアしておけば、名前以外のことは安心してどんどん広められます。商品なり、会社なり、サービスなり、その名前はある意味人格です。特に会社は法人と言われるくらいですから。その名前が他の会社の権利を侵害していたりしたら、権利以前に人となりが問われることになって大問題ですよね。

折角ファンもついたのに、ここからというところで躓いてしまったら、本当に悲しいし、勿体ないことです。それは同時に、きちんと商標を取得してきた方々に対しても失礼でしょう。

ですから、ネーミングは商標が取れてこそなのです。世のため人のために大手を振って商売するには、まず商標を取りましょう。

ネーミングというのはコンセプトを実現する経営ツール

では実際の作業の仕方を少しお話しましょう。
前回まででお話したように、まずブランドコンセプトやブランド戦略を立てます。それから、それを実現するための名前は何だろう?と考えていきます。

つまり、全く違うところからコンセプトを持ってくるのではなく、軸となるコンセプトを基に考えていくということです。

ネーミングをされる会社さんは皆そうされていると思いますが、最初は無作為に広げて考えます。そしてそれをスクリーニングに掛けます。ネガティブなスクリーニングです。「商標は大丈夫?」「日本人は読めないだろうね」「ちょっと発音しにくいね」といった、色々なスクリーニングを掛け、絞った中からお客様に選択していただきます。

このスクリーニングの作業はけっこう苦しいんですよ。自分たちが良いと思って発想したものが、どんどんなくなっていくのですから。(笑) 「あのアイディアは良かったのに」「あの名前は良かったのに近い名前が既に登録されているからダメ」などとなるわけです。

しかしそこで挫けずに、それではどうしましょうか? というのがクリエイティビティですよね。誤魔化すのではなく、それを真正面に捉えて超えていくことが大切だと思っています。

こういう時、グラビティーワンでも暗い雰囲気になります。でも、粘り強く考え抜くしかないし、きっと答えはあると信じてやっています。これまで、もっと合理的な方法はないの? と試行錯誤を繰り返していますが、最後は諦めないという気合いになります。商標的にもお客様にもOKというネーミングを振り返ってみると、なんであんなに苦労したんだんだろう? なんで最初から気付かなかったんだろう? と感じることが常です。

ネーミングは商標が取れてこそ!イラスト:亀谷

コンセプトを突き詰めると見えてくる名前の持つ意味

最近弊社でお手伝いしたお客様に「ささえあ製薬」という企業がいらっしゃいます。オリックスさんが音頭をとって、動物用のワクチンを開発製造している京都微研さんと、お薬を開発製造しているフジタ製薬さんの2社が連携することによって、もっとたくさんの方々や動物に一貫したサービスができるようにということを目指した動物医薬のグループです。そこで、このグループの名前をどうしましょう?ということでお手伝いさせていただきました。

まず両社の社員の方々、経営陣の方々に色々なお話をお伺いしました。もちろん動物の命を守るためにお薬やワクチンを作られているわけですが、動物の命を守るということは、心の豊かさ、食の安全、農家さんの収入、延いては社会の安定、日本の安全保障であるといった文脈が見えてきました。

一口に動物医薬と言っても二種類あります。ひとつはコンパニオンアニマルと言われる犬や猫などの、いわゆるペット。もう一つは主に食べることを目的とする産業動物、家畜です。

ペットオーナーなら分かると思いますが、コンパニオンアニマルは家族の一員なんです。ですからその子が健康的に寿命を全うして欲しいと思いますよね。私の家族は3頭の大切な家族(犬)を自宅で看取ってきましたし、亡くなる瞬間の無力さも、その前の楽しかった様々なことも決して忘れられない記憶として残っています。そして、今は元気一杯の女の子(犬)が私たちの暮らしを豊かにしてくれいています。

こういう具合に、コンパニオンアニマルに対して、我々人間は凄く感情を揺さぶられます。だからペットロスに陥ったり、もちろん一緒に暮らす喜びもあるわけです。

産業動物にも、同じく精神的なもの、加えて経済的なプラスとマイナスがあります。例えば豚コレラが発生すると、その農家だけでなく近隣一帯の農家の豚を殺処分することになります。それは本当に悲惨な光景です。農家の方々は泣きますよ。大事に育てた可愛い豚たちなんですから。

そうなった時の農家の方々の精神的なダメージと経済的な損失は計り知れません。毎日スーパーに並んでいるお肉はどこから来たの?たまにご馳走になるブランド牛などをよーく考えてみると察しが着くと思うんですが、畜産は大規模かつ細部まで設計されたビジネスです。ウイルスや細菌による被害は農家だけではないことを私たち一般消費者はなんとなく感じているはずです。

こうした産業動物たちを守るということは、社会的な責任を負託されているわけです。もし次々に病気が蔓延してしまったら? 北海道で発生したものが本州や沖縄まで伝播してしまったら? こういったことを無くすためにどうしたら良いかというのは食の安全ということですよね? もちろん薬を過剰投与しないとか、副作用が限りなく低いワクチンの開発も含めて。

多くの協力を得るためには良い名前、良いコンセプトを掲げよう

そうした動物のことを考えると、この企業グループの創設コンセプトがはっきりしてきます。世の中の幸せのためにやっているのではないか、その幸せを自分たちで作る人々を支えることではないか、人々と社会を支えることがこの会社の使命なのではないか、といったことを考えてネーミング案をたくさん作りました。そのうちの一つ、「ささえあ」というのが経営陣の目に留まったのです。「あ」はアニマルの「あ」、それを支えようという意味です。

「ささえあ」。この響きはとても優しくて、でも力強くて、さらにグループの目指す方向を瞬時に人々に伝えることができる。グローバルにおいても日本企業としての立ち位置を伝えやすいのではないか…。

私たちは、このようにESGやCSVの視点を大切にネーミングしています。だって、結局のところ、自分自身が暮らす社会のためにならないとファンを増やすブランドにならないじゃないですか。大きなグループだから市場を独占できるとか、営業交渉力で勝るとかは流行らないし、なにか違うと思うんですよね。

こういう風に考えていくと、お客様も助けてくださるんです。「Sasaeah」とアルファベットにした時に、「a」で終わると海外では読めないんですよね。最後のaが上手く発音できない。ですが「ah」にすると海外の方達も読みやすい。私たちの案は「a」で終わらせていたのですが、お客様から最後に「h」を付けたらどうかとご提案いただきました。じつは「ah」は、animal health の略でもあるのです。ご提案いただいた経営幹部の意図は、ただ読めるからというだけではなかったのです。

私は、お客様とアイデアを重ね合わせる弁証法的なクリエイティブアプローチが最善を生み出す方法だと思います。ブランド戦略でもお伝えしましたが、良い名前とか、良いコンセプトというのはみんなが協力してくれるものなのです。寝ても覚めても、粘り強く四六時中考え続けていれば、必ずそうなると思います。気合いかな? 気合いですね。全くスマートではないし、合理的でもないけど、魂を込めることがネーミングの本質だと思います。

次回は視覚的にインパクトを与える「ロゴ」についてのお話です。