価格競争から脱却する方法|情緒的価値でブランドを守る戦略

価格競争から脱却する方法|情緒的価値でブランドを守る戦略

価格競争は、多くの企業が避けて通れない課題の一つです。

市場で選ばれるために価格を下げ続けるうちに、気づけば「安さ」だけが魅力のブランドになってしまっていた――そんな状況に心当たりのある企業も少なくないでしょう。

価格を下げることで一時的な売上は得られるかもしれませんが、中長期的には利益率やブランド価値の低下といったリスクを招く可能性もあります。

この記事では、価格競争の仕組みとその影響を整理しながら、価格に頼らず価値で選ばれるブランドを実現するための戦略を解説していきます。

価格競争がブランドに与える影響(デメリット)

価格競争が始まると、市場全体で値下げが連鎖的に起こるようになります。価格を下げることで、短期的には販売促進につながる場合もありますが、長期的には企業やブランドにとってさまざまな悪影響を及ぼす可能性があるため、注意が必要です。

長期的な競争力が低下する

価格を下げれば、短期的には販売数が増えるでしょう。しかしその分、利益率が低下します。利益率が下がると、利益を増やすためには販売数を増やす必要があるため、オペレーション全体に過剰な負荷がかかるようになります。

また、収益の余裕が薄くなることで、商品企画や改善へのリソースが限られてしまうこともあるでしょう。競争力の高い商品を開発するのが難しくなることで、価格以外の理由で選ばれる力が弱まり、長期的な競争力の低下につながっていきます。

ブランド価値が低下する

安さを前面に出し、価格で選ばれ続けていると、商品の独自性や魅力が伝わりにくくなり、結果としてブランドの価値が低下します。

ブランドとは、本来、価格以外の価値で顧客に選ばれるための仕組みです。価格競争に巻き込まれ、安さで勝負してしまうことは、長い時間をかけて積み上げてきたブランドイメージを崩し、ブランドの持っていた力を自ら手放してしまうことになります。

価格競争に巻き込まれないための戦略とは

価格競争に巻き込まれないための戦略とは

価格競争に巻き込まれないためには、価格ではなく「価値」で選ばれるブランドになることが不可欠です。

価値には、機能的価値と情緒的価値の2種類があります。

  • ● 機能的価値とは:商品の品質や性能、使いやすさなど、機能面での価値
  • ● 情緒的価値とは:商品への共感や信頼、世界観など、感情に基づく価値

価格競争が起きやすい市場では、競合商品が多いため、機能的価値に注目しやすくなります。「使いやすい」「丈夫」「軽い」といった機能的な違いを示すことで、少しでも高価格を維持しようと努めることが多いでしょう。

しかし、長期的にブランドの価値を高めるためには、情緒的価値にも目を向けることが欠かせません。機能的価値・情緒的価値の両者をブランドコンセプトに沿って高めていくことこそが、価格ではなく価値で選ばれるブランドづくりの基盤になるのです。

情緒的価値を活かした「価格競争に強いブランド戦略」

情緒的価値とはどういうものなのか、そしてそれがなぜ価格競争回避において重要なのかを整理していきます。

ブランドの価値を高める情緒的価値とは

情緒的価値とは、その商品に触れたときの感情に基づく価値です。たとえば、皆さんは、

「ハイスペックなパソコンや高級な文房具を購入したら、仕事のモチベーションが高まった」

という経験をしたことはないでしょうか。

そのときに仕事のモチベーションが高まったのは、「作業がはかどる」「書きやすい」といった機能だけでなく、「良いものを手に入れて嬉しい」「これを買えた自分に満足」「誇らしい」といった感情の動きが大きく影響していたのではないでしょうか。

これこそが、ハイスペックなパソコンや高級な文房具の情緒的価値です。情緒的価値は目に見えにくいものですが、選ばれるブランドになるための非常に重要な要素なのです。

【事例】情緒的価値で価格競争から脱却したブランド戦略

【事例】情緒的価値で価格競争から脱却したブランド戦略

情緒的価値を高めることでブランド価値を築き、価格競争から脱却している事例として、航空業界の取り組みをご紹介します。

羽田空港などに設置されている「エグゼクティブラウンジ」は、特定の航空会社を頻繁に利用する上級会員だけが入ることのできる特別な空間です。また、上級会員には、他の乗客よりも先に飛行機に搭乗できる「優先搭乗」のサービスも提供されます。

飛行機をよく利用する人の中には、こうしたサービスを享受するために上級会員の資格を維持しようと、特定の航空会社を選び続けている人が少なくありません。上級会員になるには、一定のマイル数などの条件を満たす必要があるため、その達成のために、目的がなくても飛行機に乗ってマイルを貯める「マイル修行」をする人がいることも知られています。

しかし実のところ、これらのサービスは、利用できないからといって大きな不便や損失が生じるものではありません。

たとえば、エグゼクティブラウンジには「快適」「コンセントが使える」「コーヒーを無料で飲める」といった機能的価値がありますが、コーヒーを飲みながら仕事をする程度であれば、空港内のカフェでも十分に代替可能です。優先搭乗についても、先に搭乗したからといって、座席が良くなるわけでも、現地に早く到着できるわけでもありません。

それでも多くの人がこうしたサービスを魅力的に感じるのは、「限られた人だけが利用できる」という特別感や、「自分は大切に扱われている」という満足感といった情緒的価値があるからです。これらの体験が、「この航空会社を使い続け、翌年も上級会員の資格を得たい」という気持ちを生み出し、継続利用へとつながっており、そこには価格競争は存在しません。

これはまさに、情緒的価値を高めることで優良顧客との関係を強化し、価格競争からの脱却を実現している好例といえるでしょう。

まとめ

この記事では、価格競争から脱却する方法として、情緒的価値でブランドを守る戦略について解説しました。

  • ● 価格競争がブランドに与える影響(デメリット)
  • ● 価格競争に巻き込まれないための戦略とは
  • ● 情緒的価値を活かした「価格競争に強いブランド戦略」

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