想いを届ける、高揚感を与えるサインシステム(看板)とは?

想いを届ける、高揚感を与えるサインシステム(看板)とは?

前回は、コミュニケーションデザインの手法の一つ、サインシステム(看板)についてご紹介いたしましたが、この看板が方向を示すだけではなく、高揚感を与えるという役割も担っているというお話をしたいと思います。

方向を示すだけじゃない。高揚感を与えるのも看板の果たす役割?

長距離サインとしての役割だけではなく、事業内容や品位を示す上でもビルのサインは大事です。ホテルとかもそうしていますよね。入って出て行く時のドラマも必要です。エントランスの周りは特に。ホテルなら喧騒を離れた上質の空間、オフィスならここからは仕事モード、など意識を変えるポイントを演出するのが看板の妙だと思います。私が参考にしているのはコロシアムであり、現代のスタジアムです。

サッカーのスタジアムはJリーグができた当初から、その動線がとてもよくできていると思います。

ここから先が闘技場ですみたいに、意識が変わるところがバチっと決められている。エントランス近くで。そこはすごく華やかで、ただの入り口ではないんです。それ自体がエンタメプレイスになっているエントランスがあって、そこを通って階段を上がっていくと鮮やかな緑に輝くフィールドが見えて気持ちも上がります。みんな楽しむために来ているのですから。これはローマの時代から変わっていません。

でもそのエンターテインメント性は、日本は全体的に弱いなぁと思います。人々をエンターテインするとかエンゲージメントについてあまり関心が高くないのか、放っていても売れていた昭和が根強く残っているのかもしれません。物がない時代と飽和している現代では違います。楽しいという体験を作り込んでいかないと、対象者に関心を持ってもらえないし、競争に勝てません。スーパーマーケットでも大学でも企業でも同じです。

私は、従業員の送迎用バスにも同じ姿勢で取り組んでいます。従業員やパートさんがちょっと誇らしいと感じてもらえるバスは、生産物の品質を左右するし、会社への意識も変わるからです。きちんとデザインされていない上に、おんぼろバスだとドナドナ状態になりませんか?エンゲージメントもだだ下がりです。そうした感情や感覚的なことを気にするのが、タッチポイントを基にしたコミュニケーションデザインなのです。

アメリカにいた頃の話になりますが、よく野球を観に球場に行っていました。特に応援するチームがあったわけではありませんが、ボスが野球好きで年間チケットをくれたんです。やはり向こうの球場はエンターテインメント性がありました。エントランス以前、もうパーキングからワクワクさせてくれる。特に野球ファンでもなんでもない私を、サンフランシスコ・ジャイアンツのにわかファンにさせてくれるんです。だからこうして口コミしている自分がいるんですね。

今は日本の球場もすごくよくなりました。ファンをがっつり喜ばせてくれる。入っていく時の意識がワーッと上がるところから、終わっても高揚が止まらず、ある意味テーマパークのようにおみやげを買いたくなりますね。

看板の果たす役割として、高揚感がどこかにあるわけです。ただの方向を示すだけでも、所在だけでもなく。こういう風にしっかりと看板をデザインしたいですね。そして看板だけでなく、動画や冊子も。

もちろん、これは我々だけではなく、施工会社さんの人達や専門家の協力が必要です。しかし概念を理解しているからこそ、お客様に対してこういう看板を作ってはどうですか?といった橋渡しができるのだと思っています。ですから看板の設計まではいきませんがデザインをする時があります。

北海道科学大学の看板は、そういう協力体制でお手伝いしました。春にやってくる新入生を想像し、在校生や教職員のこと、地域に暮らす人々を思い、冬のキャンパスで雪をかき分けつつぐるぐると何度も歩き回ったのを思い出します。

先ほどお話ししたカスタマージャーニーを自分でやってみるというのがこれなんですが、格好良くないし、靴底減らして行うものだと思います。空論かどうかは別として、多くの計画が机上で練られるのが現実ですが、練り込む内容は現場にしかありません。だから、私はことある毎に現場訪問をお客様にお勧めしています。そして、自分自身も現場に必ず行きます。何度でも、何かの気付きを得られるまで。

見せ方ひとつで伝わり方は大きく変わる

昔、ホテルのデザインのお手伝いをした時に、ありとあらゆる看板を監修しました。面白かったですね。長距離サインの看板で、光をどうやって、どういう風に発光させるか、という課題がありました。

ホテルの看板って、大体何らかの形で光ってますよね。外からスポットライトを当てるのか、あるいは看板自体が光るのか。色々なやり方があるわけです。

光を当てると色が変わるし、色がちゃんと再現できるかどうか。内照灯と言って、自分が光るものを使用した際、光る素子、細かなLEDライトで調整するのですが、それが本当に長距離から見たときに、ホテルのブランドカラーとマッチするのかどうか。そのホテルの色は青だったのですが、マッチさせようとすると少し暗くなるから敢えて明るめにしておこうとか、試行錯誤を繰り返しました。

発光色を印刷色に合わせてしまうと、本末転倒で見えないんですよ。全然違う青を使うわけにはいかないし、関係者の皆さんと悩みましたね。

解決策はありました。自分で光らせるのはやめたんです。看板の後ろ側を浮かして、光を壁にあてるんです。そうすると文字の周りがふわーっと光るんです。文字自体が光るのではなくて。文字の周りが光るところに少しだけ青を入れておく。でも基本的に白っぽい光なので、ロゴはちゃんと見えるんです。でもロゴ自体には色がついていない。暗い夜に見るとね。

でもほら、ブランドカラーを変えてないんです。問題解決です。

看板ひとつでも奥が深くて面白いでしょう?人々にファンになってもらいたいし、喜んでもらいたい。エンタメからエンゲージメントまで網羅しつつ、分析手法としてのカスタマージャーニーから探るタッチポイントなど……今回はカタカナが多過ぎたと思いますが、全てマーケティング用語ですので、あえて語らせていただきました。ひとつひとつの言葉よりも、文脈として理解していただければ嬉しいです。

想いを届けるデザイン、ブランディングの専門家として気をつけているコミュニケーションデザインについてでした。

 

『シーズン2、亀谷がひもとくブランディング』はこれで一旦終了です。いかがでしたでしょうか?何かヒントは見つかりましたか?

もし面白そうだな、と思われたなら是非、遠慮なくご相談ください。それぞれに合った方法でお手伝いさせていただければ幸いです。

次から始まるシーズン3は、今までお手伝いさせていただいた事例をご紹介しながら、どのようなことをどんなふうに進めて行ったかなどをお話しさせていただく予定です。

どうぞお楽しみに!