継承と進化のインナーブランディング
いよいよシーズン3も最終回となりました。2013年のブランディング開始以降、キンレイ様は成長軌道にあります。開始からずっと継続してパッケージデザインをお手伝いさせていただいていますが、もう一つご提供させていただいている大切なことがあります。それがインナーブランディングです。最近では、パーパス経営や従業員エンゲージメントなどで注目されている施策です。
最終回は、企業が成長していくために不可欠な、インナーブランディングについてお話したいと思います。
インナーブランディング「志の自分ごと化」の重要性
キンレイ様には、最初から「本物を作ろう」という志がありました。2回目にも出てきましたが、企業理念を策定する際に聴いた「自分の娘に食べさせられるものを作りたい!」が、私にはずっと響いています。それが、現在の企業理念の元になっています。こうした想いや、これまでに培ってきた技術などを新しい世代に継承しつつ、進化させていく風土づくりをサポートしています。
企業の志をはっきりさせるのはブランディングのスタート地点です。それでは、全社一丸となって志を実現していくにはどうしたら良いのでしょうか。それには、社員一人ひとりに志を「自分ごと化」してもらい、なおかつ日々の活動に落とし込んでいく、長くて継続的な取り組みが必須になります。
この取り組みを、インナーブランディングと呼びます。多くの企業が企業理念の策定でホッとしていまい、その後が続かない取り組みでもあります。でも考えみてください。企業理念の発表は、花火大会のように一回で終わってしまうイベントです。翌日には昨夜のスペクタクルをすっかり忘れて日常に戻ってしまいますよね。せっかくの志ですから、しっかり社内に浸透させていかないと勿体無いと思います。
キンレイ様は先にも申し上げた通り成長著しい会社です。ということは、当然、社員が増えます。食品工場で働くパートさんも増えます。となりますと、パートさんにもやはり、キンレイは一体何者かということをある程度理解していただかなくてはなりません。そして、それを新しく入ってきた社員が発信源になって広めていかなくてはならないということになります。先輩社員にとっては、企業理念の大切さを部下に伝えていくタスクが発生します。そこで必要になってくるのが、企業理念の理解を深める施策です。それを毎年のように手法を変えて、または対象者を変えて、企業理念が風化しないように、現場でどんどん発展的な取り組みをしていただけるように、ワークショップや啓発アイテムを開発しています。
ここで、インナーブランディングの手法を紹介します。それはとてもシンプルですし、大昔から人類が行なってきたことでもあります。手法は、大きく2つに分けられるのですが、1つ目は指導型アイテムです。これは、企業理念を表示した携帯カード、ポスター、動画など、企業理念を従業員の頭に訴求する物理的なインフラとお考えください。誤解を恐れず言うと、バイブルや絵画など、現存する主だった宗教が行なっていることです。政府もずっと昔から同じことをしていますし、流行りのメタバースでも基本的に同じです。人類にとって社会や集団を構築する上で必要なインフラです。
2つ目は、共感型アクティビティです。企業理念を自分ごと化してもらう、心に訴える施策です。具体的には、発表会を契機に、朝礼、改善に向けたグループセッション、ワークショップなどの定期的な活動を指します。極めてシンプルな手法ですが、これを実践するのは細心の注意を要します。例えば朝礼ですが、中身の設計を誤ると、上長からの説教部屋になってしまい、部下が会社を嫌いになってしまいます。嫌いにならなくても、志を体現しようという気が失せてしまうのはよくある話です。
私は、企業ごとに異なる文化を尊重し、現場を観させてもらってから、その会社にあった朝礼方法をアドバイスするなり設計したりしています。朝礼だけではなく、物理的なインフラもそうです。ある企業には、ポスターの代わりに、パソコンの起動画面に企業理念にまつわる物語を表示しました。アイデアは、T Vシリーズの24からです。劇中のエージェントのパソコン画面に組織の紋章が写っていたところからもらいました。かっこいいな〜、たぶんあのIT企業さんには合うに違いないと。でもロゴがバーンと画面に出てきて気持ちが上がるのかな?上がったとしても最初の数回で、直ぐに飽きちゃうだろうと想像できたので、それでは毎月異なる物語を10個ほど用意して1年続けましょうと提案しました。
結果は大成功でした。企業理念の言わんとしていることが物語として見える化したことで、こういう物語の一員になりたいという反応を社員の方々からいただきました。この施策を回すのは、正直しんどかったのですが、そういう声を聞くとやって良かったとホッとしたことを覚えています。ちなみに、この施策は指導型アイテムと共感型アクティビティのコンボです。
これまでも、これからも、いつもお客様と共に
ブランディングについて、最初から企業理念をやりましょうとかネーミングをしましょうとか、ロゴを作りましょう、なんてことは言わないのが私の流儀です。もちろん、具体的に企業理念を策定したい、パッケージデザインを依頼したいという明確なご要望がある場合は別ですが、半分くらいのケースは、困りごとを聴いて、結果的に解決策はこれじゃないんですかね、という姿勢です。弊社サイトのVOICEの中で、「こんな会社あまり見たことがない」と和田社長におっしゃっていただいたのは、おそらく最初からメニューを出して、「こうやったら成功しますよ」と言わなかったからだと思います。そんな占い師みたいなことは、私には霊感がないのでできないのです。(笑)
社名であるグラビティーワン(Gravity One)には、お客様のナレッジや価値観を一つ(One)に結実させ、強い引力(Gravity)で人々をファンにする、といった想いを込めました。
企業の志と社員の意識が重なることで、事業活動に「らしさ」と「ワクワク」といったダイナミズムが発生し、社内外の人々をファンにするブランドが形成されると考えます。そうした企業が増えていく世界は、きっと社会課題を解決したり、人々を笑顔にするに違いないと信じています。そのために、暗黙知を引き出す BrainShuffle® ワークショップ、コンセプトを実体化させるデザイン、そして志を社内共有するファシリテーションをスタッフと共に進化し続けています。私にとって、パーパス経営やエンゲージメントは、もうずっと前からブランディングだからです。
これで、シーズン3は完結です。ご覧いただきました皆様と共に、ご協力いただきましたキンレイ様に感謝を申し上げます。
次回のシーズン4は、今が旬のパーパス経営とエンゲージメントを取り上げたいと思います。って、急に心変わりしたらお許しください。その可能性は大です。
ではでは。