「なべやき屋キンレイ」という商品ブランドの確立

シーズン3は、株式会社キンレイ様の事例をご紹介しながら、亀谷がどのように考え、どうやってブランディングを進めているかを共有させていただいています。

前回のブログでは、グラビティーワンで開発したBrainShuffle®というワークショップを行ったお話をしました。今回は、商品ブランドのネーミングからパッケージデザインまで、どのように進めているのかをお伝えします。

なべやき屋キンレイ_ブランドロゴ

「企業名」にプラスα、「商品ブランド名」が必要な理由

企業理念の策定後、次の我々のタスクは商品パッケージのデザインでした。この時、企業理念を基にしたデザインにしようということで、それまでとガラッと変えたフルリニューアルを行いました。

パッケージデザインを開始するにあたって、企業ブランドとは別に商品ブランド名を検討しました。テレビ宣伝をバンバン打てないし、キンレイという社名だけでは彼らが専心していることが消費者に伝わりづらいと考えたからです。なにか覚えやすい音はないのものかと考えついたのが「なべやき屋キンレイ」というネーミングです。これは私だけでなく、先にご紹介した柳田さんと一緒に考案したネーミングです。

通常、こういったブランド名などをご提案する時はまず100案ぐらい考えます。そこから商標を確認したりしながら5案くらいに絞ってお客様に提案しますが、この時はこれしかないという感じで提案しました。

ところで、なぜキンレイの鍋焼うどんじゃダメなの?と普通は思いますよね。味噌煮込みうどんやカレーうどんなど、沢山の商品があって、それらを束ねるブランド名がないとフレーバー名しか消費者の記憶に残らないかもしれない。なぜなら、消費者は商品を選択する際にどんな味なのかを示すフレーバー名を一番見ているから。これでは、いつまで経ってもブランドの認知は向上しないし、勿体無いという仮説を立てました。

お客様の状況は皆さんそれぞれに違いますから、この方法が唯一無二の絶対的に正しいわけではないのですが、フレーバー名とブランド名の仮説に対して、キンレイ様の場合は非常にスムーズにご理解をいただき、ではやってみようということになったのです。

次は、ブランド名のロゴを含めたパッケージデザインへ進むのですが、その前に商品の体系化をお手伝いしました。体系化というのは、お客様から見て分かりやすいように商品を分類し、シリーズ化していく作業です。分類が明確で、消費者目線だとシリーズ毎の違いも伝わりやすく、パッケージデザインも効果を発揮しやすくなります。

シズル感よりもブランドステイタスという作戦

キンレイ様のコンビニ商品は、アルミ容器の上にフィルムで蓋をした形状です。その蓋がデザインできる範囲なのですが、リニューアル前は、ほぼリアルサイズの大きな写真がデザインされていました。でも、私はこれではカップ麺と同じだなと思ったんです。もちろんそういうデザインもご提案はしたのですが、何か違う気がして、ハーゲンダッツ作戦を推奨しました。それは、ブランドを前面に出す作戦です。

鍋焼きうどんパッケージ

(ブランドを全面に出した商品パッケージ)

例えばスーパーカップのように、バニラアイスを今スプーンですくっていますみたいな、ジュワッと口が潤うような写真を、我々の業界ではシズルと言います。だいたい中身と同じサイズなのも特徴です。それに対しハーゲンダッツの蓋にはロゴが中心に据えられ、フレーバーが分かる程度の小さなイラストしかありません。つまりシズルが圧倒的に少なく、ハーゲンダッツというブランドで売っているわけです。どちらもよく使われる手法ですが、全然違う両極端な例です。

私たち消費者は、シズルが多くて美味しそうだなと手に取る時もあれば、今日はちょっと自分にご褒美でこれを食べようという時もあります。値段設定も高めで安売りはしないコンビニでは、先程も申し上げましたが、2メートルも離れていない棚に陳列されているカップ麺と同じデザインでは苦戦するだろうと思いました。そこで、付加価値の訴求力があるハーゲンダッツ作戦をご提案したわけです。これはちょっと物議を醸しましたが。(笑)

最終的に、キンレイ様のコンビニ商品は、グツグツ煮た鍋のシズルを表示しつつもキュッと小さくして、それよりも「なべやき屋キンレイ」というブランド名を立たせたデザインになりました。キンレイ様は付加価値が強いですから、最適な方法だったと思っています。現在では、主にミニストップでそのデザインを見ることができます。その他のコンビニではキンレイが製造者ではあるものの、プライベートブランド化しています。このプライベートブランドのお話が、次に繋がって行きます。

コンビニ用とスーパー用ではデザインの考え方も違う

コンビニとは全く異なる発想で、スーパー用のパッケージデザインも立て続けにデザインしました。何故なら、コンビニ用の商品はいずれプライベートブランド化されるだろうと思ったからです。

スーパーの商品イメージ

(スーパー用の商品パッケージ)

これは7年前くらいのお話なのですが、当時から現在のプライベートブランド(以下PB)の広がりは十分に予測されていました。私は別件でPBデザインにも携わった経験がありますので、基本的にはPB肯定派なのですが、この時はキンレイ様の出番が無くなってしまうことを懸念せざるを得ませんでした。なぜかと言うと、コンビニの名前を冠したPBになってしまったら、「鍋焼屋キンレイ」という自社ブランドはなくなってしまいます。製造者は誰?とパッケージの細かい文字に注目すればキンレイということになりますが、それだけではいけないという圧倒的な危機感でした。

PBはある程度まとまった売り上げになりますから、食品メーカーとしては嬉しい反面、中身も含め色々なコントロールを委ねてしまうことになります。すると、メーカー側の意思より小売側の意向になってしまい、せっかくのキンレイ様のDNAが薄まってしまうと考えたわけです。もちろん、キンレイ様は小売と共に様々な商品を開発していますし、私が勝手に心配しなくても既に食品スーパーへの新販路の開拓は進めていたのですが、ここはもう一踏ん張りしないといけないぞ、といったタイミングでした。

スーパーの場合、比較的リーズナブルな価格で、更にセールもします。よく毎週この曜日は冷凍食品は20%オフとかありますよね。
消費者のマインドもセールをしないコンビニとは全く異なります。私もそうなのですが、コンビニでの提示額はそのまま受け入れます。もちろん、結構するな〜とか思うこともありますが、その時は別な商品を買うか、買わないかの選択です。選択肢が狭く、シンプルな購入体験です。

当たり前ですが、スーパーはコンビニよりも広く、選択肢も大きく広がります。そして、値段に対する消費者の目も厳しくなります。つまり、同じような商品が並んでいるけど、なぜ値段が違うのかが気になる場がスーパーです。そのため、シズルを大きくして関心をもってもらうようにし、その上で付加価値の印となる「なべやき屋キンレイ」のロゴへ目線が動くように弊社のシニアアートディレクターの森にデザインしてもらいました。コンビニとは真逆の作戦です。

手のひら返した作戦だと思ったでしょう? 売り場が違えばパッケージデザインの役割も変わりますから異なる手法をとりましたが、ブランド認知への考え方は共通なんです。何があっても外せない、ブランディング屋のこだわりです。

当時デザインしたものの流れから、今はもう4世代目になります。毎回キンレイ様と、キンレイの本質は消費者に伝わっているのか? もっとできることはないのか? といった仮説を立てて改善し続けて現在のパッケージデザインに至っています。進化の取り組みは、今後も続きます。スーパーの冷凍ケースの中で「なべやき屋キンレイ」を見つけると、これからも頑張ろうね、と商品に念を送ったりしています。

次回最終回は、組織を進化させ続けていくために、企業理念を軸にしたインナーブランディングのお話をいたします。