企業理念の策定とBrainShuffle®ワークショップ

Brain shuffleのイメージ図

シーズン3は、株式会社キンレイ様の事例をご紹介しながら、亀谷がどのように考え、どうやってブランディングを進めているかを共有させていただきます。

前回は、ブランディングを実施する背景を紹介しました。端的に言うと、厳しい時ほどブランディングが求められます。今回は、プロジェクトの第一段階となるワークショップの所作についてです。

ブランディングの核となる暗黙知とは

ブランディングの核は志がつまった企業理念です。では、企業理念はどうやって策定するのか?答えは、暗黙知にあると私は考えています。

新しいお客様には必ず、状況を把握するためにキーパーソンインタビューを行います。ブランディング会社としての常套手段ですが、私はこの時点からファシリテーターとして傾聴と深掘りに徹するようにしています。そして、できるだけパーソナルな暗黙知を引き出すようにします。例えば役員であっても、一人の人間であり、誰かの父や母、変化し続ける社会の一員であるわけで、そういう視点からのお話は会社に対する課題認識や夢の源として大切だと思うからです。

様々なプロジェクトを通していつも感じることがあります。それは、インタビューを重ねていくと、組織の構成員には言葉は違えども大切にしている共通点があるということです。その時点ではお客様も私自身も明確に言語化できないのですが、独特の思想のようなものが確実にある。それは、老舗だけでなくスタートアップ企業にもあります。とはいえ、ここで言語化できていたらそもそも私は必要ないわけですから、みんなで考えるワークショップをしましょう、と言うことになります。

キンレイ様のワークショップで印象的だったのは、参加者の一人から出た「自分の娘に食べさせられるものを作りたい!」というほとばしる情熱でした。転職前の会社で作っていた食品は原材料や製造方法を知ってしまうと自信を持って家族には食べさせられない。だからキンレイに転職したし、日々頑張っているとのお話でした。こうした想いは、仕事と繋がって一本の物語になっているナレッジであり、普段は隠れている暗黙知でした。

そういう視点でワークショップを継続していくと、彼だけではなく、集まっている方のほとんどが同じ考えを持っていることが分かりました。色々とモヤモヤしていた厳しい状況の中で、再び自信をもって出せる本物を作ろうという精神が、地中深くに溜まったマグマのようにずっと存在していたわけです。

BrainShuffle®ワークショップを通して見えてくる志

ほとんどの人にとってそうだと思うのですが、日々の仕事をしている中で会社の将来をとことん語る場はありません。グラビティーワンでは2日間連続の合宿形式を、状況が許す限り推奨しています。昼も夜もグループで議論し、マグマが見つかったらどんどん掘っていく。これは、研修ではない本気のワークショップでしか得られない機会です。

掘った結果、キンレイ様のプロジェクトで見つかったのは「キンレイは冷凍食品をつくっているのではない」という物語、ブランディング用語でいうところのシグネチャーストーリーでした。

冷凍食品会社が、冷凍食品の製造を目的にしていないとはどう言うことか。それは、真心のこもった温かいもの、本物をお客様に届けたいという価値観を基にした情熱であり、具体的な商品開発や製造方法として工場ラインのあちこちに物理的に埋め込まれていたアセットであり、その運用を支える組織的なナレッジだったのです。

冷凍技術を徹底的に研究しているのは、それ自体が目的ではなく、つくりたてを消費者に届けるためなんだということがはっきりと見えました。情熱、アセット、ナレッジが結びついた独自の志が見えたのですから、後はお分かりですね。そう、行動あるのみです。私は、企業理念の策定を通してキンレイの皆様が思いっきり行動できる起点づくりを、外部からほんの少しだけお手伝いしただけです。実は始めからそこにあった大切なことにスポットライトをあてたような感覚です。

ワークショップのあるべき形、その設計思想

どうしたら志を言語化できるのか?その方法をグラビティーワンで開発したBrainShuffle®ワークショップの設計思想を含めてお伝えします。上司から突然ブランディングをやれーみたいなことになったら参考にしてみてください。

暗黙知のイメージ図

先ず、暗黙知とは?からです。それは個人に宿ります。組織的に明らかになっているのなら、それは形式知です。暗黙知は本人ですらきちんと言語化できていないのが大半で、そういったナレッジは人生経験と仕事経験がないまぜになっているので、適切な順序を経ないと周囲が困惑するか、発言者が痛い感じになってしまいます。この適切な順序がワークショップです。

普段の会議は短時間で効率よく結果を出すために数字や既成事実が求められます。ワークショップは、もっと深いというか、そもそも自分たちは誰の何のために存在しているのかを問い、多様な人間と様々なこだわりをトンカントンカン叩いていく工房のようなものです。でも、この工房は最後にできるものがどんな形になるのか分からない。分からないからやるのですから、クリエイティブな方法が求められます。

それは写真を使うことから始めます。ふーん…それだけ?とあなたは思ったに違いありません。そう、写真を使うワークショップは既に世の中にありますよね。でも、それはデザイナーが選んだ写真で、コンサルタントが考えた道への誘導になっている場合があります。

私もデザイナーモードの時はブランドの世界観をスタッフと選んだ写真で提案しますが、ワークショップでは真逆です。参加者には写真を自由に選んでもらいます。選んだ理由を語ってもらうことで暗黙知を引き出す、参加者主体のワークショップにしています。写真を媒介すると個人的なこだわりを話しやすくなりますし、自分のこだわりがどこから来ているのかの気付きになります。他のメンバーにとっては、写真が文脈を補ってくれるので、その人が言わんとしていることに共感しやすくなります。そして、共感を土台にすると異なる意見も討議しやすくなります。参加者同志の勝敗や忖度による妥協ではない、弁証法による一段階上の視座を得ることができます。

クリエイティブな方法というのは、このように相反するか普段は別物だと思っていたアイデアを融合して新しいナレッジを創造することです。参加者もファシリテーターの私も右脳と左脳がフル回転のワークショップになります。よく懇親会で、ヘトヘトだけと愉しいという感想をいただきます。本当にそうだな〜、クリエイティブってヘトヘトで愉しいものだと、私も思います。念を押すと、写真を使うことから始めるのであって、写真を使うことがクリエイティブではありません。

次に、ワークショップに参加いただくメンバーの選抜方法についてです。私は、経営幹部とネクストリーダーを混ぜるようにしています。いつもの顔ぶれで考えても限界があるし、新しい発想は生まれない。地位や部門が異なる右脳と左脳をぐるぐる回して、大局と詳細、抽象と具象を同時に見つめつつ上位概念に持っていくことを狙います。これが色々な頭をぐるぐるとシャッフルするBrainShuffle®の名称由来です。

ところで、ここ数年、選抜されたメンバーだけではなく、パートさんや全社員にBrainShuffle®を実施することも増えてきました。私たちが生きる社会はたった150年前に龍馬が挑んだ洗濯の必要なタイミングなのかもしれません。縦割りを壊し、夢を語り合い、将来の物語をみんなで創るタイミングなんだと感じています。

ワークショップの所作、まとめ

ワークショップは、居酒屋トークをお酒抜きで行うようなものです。居酒屋で熱く語ってしまうのは自分が信じる会社の姿と実際が乖離していて、その間をどうやったら埋めることができるのかといった背景があるように思います。人によっては愚痴になるし、または夢を語るときもありますが、根っこは同じではないでしょうか。こういう場で語られる自分と自社のありたい姿とは、根拠が全くゼロではないと思うんですよね。実現できる実践的なナレッジがあって、たとえそれらが現時点での本流ではなくても、組織と社員一人ひとりの成長をドライブしてくれる可能性を秘めていると考えます。稲盛流コンパや本田流の車座など、膝詰めで話し合うって大切です。

BrainShuffleは、そうしたナレッジクリエイションを、段階的な進行に沿って、愉しく生成しましょうという方法です。別に弊社でなくとも構いませんから、将来を語り合う機会を社内で設けたらどうでしょう?ヒトは何のために苦労するのかが見えていると頑張れると思います。数字のお話も大事ですが、リーダーは志を語れと多くの先人は言っています。志を色んな社員と一緒に練り上げるのは、今の流行りではなく、逆に人類の長い歴史では当たり前の所作だと考えます。

次回は、志である企業理念を策定したあと、キンレイ様がいかにブランドを構築したのか、そのプロセスに対してグラビティーワンがどのように関わってきたのかをお伝えします。