【ブランディングの主役はクライアント】グラビティーワン亀谷が語るブランド戦略とは

ブランディング専門会社として、国内外の企業のブランド戦略、そしてクリエイティブデザインを手がけてきたGravity One(グラビティーワン株式会社)。その代表であり、クリエイティブディレクターを務める亀谷は、誰もが知るプロダクトや教育機関、地方自治体のブランディングなど幅広い実績を持つブランディングの専門家です。

米国、そして日本で30年にわたって培った経験を活かした、表面的ではない本質的なブランディングを得意とする亀谷の手法は、いわゆるクリエイター、デザイナーとよばれる人たちのそれとは少し異なるかもしれません。しかし、亀谷がクライアントの潜在的な思いを形にして世に送り出してきたブランドには、ゆるぎない独自性、そして強い底力があります。

強いブランドはどのようにして作られるのか。それを紐解くべく、2回にわたるインタビューの内容をお届けします。

3:【ブランディングの主役はクライアント】グラビティーワン亀谷が語るブランド戦略とは

グラビティーワン株式会社代表取締役
クリエイティブディレクター
亀谷 勉

ー今日はよろしくお願いいたします。早速ですが、まずは、これからブランド戦略に取り組もうという時に多くの人が疑問に思うであろう「ブランドとは何か」「ブランド戦略とはどういうものなのか」ということから伺っていきたいと思います。

ブランドとは、ひとことでいうと他者からの評価です。他の人から見た「こういう会社だよね」「こういう商品だよね」というイメージのことですね。

ただ他者の評価は、必ずしも企業側が「こういう風に評価されたい」と思っているものと一致するとは限りませんよね。そのため、企業は人々からの評価を自分たちの描いているイメージと一致させるように導こうとするわけです。それを導いていくための大方針が、ブランド戦略です。

ー具体的には、どのようなことをするのでしょうか。

ブランド戦略ですべきことは、3つです。1つ目は、「自分たちは何をするのか」「なぜそれをするのか」を明確にすること。つまりコンセプト設計をしっかりするということですね。そして2つ目は、実行して形にすること。3つ目は、実行している姿を人々に見せることです。

イメージを導くうえで重要なのは、納得です。企業が発信している内容と実際の行動が一致していれば、人々に納得してもらうことができます。たとえばある企業が「自分たちは挑戦的な会社です」と発信しているとしましょう。その会社が本当に次から次へと新しいことに挑戦している姿を見せていれば、人々は「この会社はたしかに挑戦的な会社だ」と納得しますよね。ブランド戦略が成功するというのは、そういうことなのだと思います。

ーでは、それを自分たちだけで進めるのと、亀谷さんのような専門家に入っていただくのとではどのような違いがありますか。

ひとことで言うと、私たちはブランド戦略のガイドです。たとえば険しい山に登る時に、ガイドがいると安心ですよね。何事もなければ自分たちだけでも登れるかもしれませんが、アクシデントが起こった時にはガイドが頼りになるでしょうし、慣れているガイドならアクシデントの兆候に気付いて未然に防ぐこともできるかもしれません。また、時には一歩前を歩いたり、後ろから応援したり、足りないものがあれば調達したり。ガイドは、色々な場面で必要なサポートをする、そんな存在です。

自社内でブランド戦略を進めている企業もたくさんありますし、社内で全部できればもちろんそれに越したことはないと思います。でもそれが不可能な場合には、私たちのような専門家と一緒に進めると良いのではないでしょうか。

ー亀谷さんが主導で決めてくださるというよりも、自分たちで進めるのを伴走してくださるというイメージでしょうか。

そうですね。ブランド戦略は専門家に丸ごと任せるのが良いと思う方もいらっしゃるかもしれませんが、実はそうではないというのが私の考えです。ブランドのことを一番よく知っているのは私たちではなく携わっている皆さんですので、皆さんが培ってきたナレッジに勝るものはないですよね。そのナレッジを無視してこちらで決めてしまうと、そのブランドが向きたい方向を無視して別の方を向かせることになってしまいます。

ブランド戦略は、携わっている皆さんがどこに向かいたいのかを整理して、そこに向かうための戦略を立てるということなのです。そのため私たちは、これまでブランドを作り上げてきた皆さんの知識、経験、培ってきた勘などを引き出して言語化し、それをベースに今後の道筋を作っていくという進め方をしています。私たちは、ファシリテーターなのです。

ーファシリテーターですか。

そうです。ファシリテーターとして、1つ1つのステップをガイドしていくのが私たちの仕事です。たとえば、ビジネスにおいてターゲットを決める場面がありますよね。その時に「主婦」というキーワードが出てきたとしましょう。実は、主婦とよばれる層の中にも色々な人がいるので、しっかりターゲティングするためにはもっと具体的に「誰が」というところまで明確にする必要があります。一般的にペルソナといわれているのがそれですね。その「誰が」を明確にしてはじめて、その人が何をどのように買うのか、なぜそれを選ぶのかが見えてくるのです。

ではその具体的なターゲットが誰なのかというと、それを知っているのは私たちではなく企業の皆さんです。分からない、知らないと思われるかもしれませんが、それは長い経験の中で感覚的に知っているけれど言語化できていないだけなので、私たちがファシリテートして言語化していきます。

私たちはあくまでも黒子であり、主人公はそのブランドに携わる企業の皆さんだということを常に意識するようにしています。

ーなるほど。ブランド戦略の本質は、携わっている人々が培ってきたナレッジを言語化するところにあるのですね。今まであまり意識してこなかったポイントでしたが、実は、戦略を正しい方向に進めるためにはその過程がとても大切だということがわかりました。ありがとうございました。次回は、気になるロゴやパッケージデザインについて、そして強いブランドを作るためには何が必要なのかという話を中心に伺っていきたいと思います。