【デザイン=ビジネスツール】グラビティーワン亀谷が語るデザイン&ブランドコンセプト
Gravity One(グラビティーワン株式会社)は、アメリカと日本で豊富な実績を持つクリエイティブディレクター 亀谷勉が率いるブランディング専門会社です。
ブランディング歴30年の経験を有する亀谷は、サンフランシスコでクリエイターとしての活動を始め、その後日本でブランディング事業に従事。そしてその傍ら、2006年から2020年と長きにわたって一橋大ICSでの講義を担当しました。こうしたユニークな経歴を活かし、様々な企業や組織のブランディングをサポートしています。
今回は、そんな亀谷へのインタビュー第2弾。デザインとブランドコンセプトについて語ってもらいました。
▶︎▶︎インタビュー第1弾 【ブランディングの主役はクライアント】グラビティーワン亀谷が語るブランド戦略とは
―今回は、デザインの話から伺っていきます。デザインを依頼して、「イメージと違った」という経験をお持ちの方も多いと思うのですが、そうならないためにはどうすると良いでしょうか。
ブランドや商品に関する情報を、デザイナーと共有すると良いかもしれませんね。皆さんはもしかしたら、デザイナーには色や形など見た目の情報を伝えれば十分だと思っていらっしゃるかもしれませんが、実はデザインを考えるうえで大切なのは、ブランドのコンセプトや商品に関する情報です。
―なぜ、コンセプトや商品に関する情報が必要なのでしょうか。
たとえばビールのデザインをするとしましょう。デザインを考えるためには、「このビールをどういうイメージの商品にしたいのか」という情報が必要ですよね。そしてそれを明確にするために、「どういうコンセプトで作られているのか」「消費者は現在このビールにどういうイメージを抱いているのか」「企業側はそのイメージをどう変えたいのか」ということも知る必要があります。すると次は、「なぜそういうイメージになったのか」となりますね。このようにどんどん掘り下げていくと、最終的には「このビールはどのようにして誕生したのか」「どんな歴史があるのか」というところまでたどりつくのです。
そのため私は、デザインの話をする前に、まずブランドや商品の成り立ちからこれまでの変遷、今の社会における立ち位置、そして将来像などを聞いていくようにしています。
―なるほど。「デザインがイメージと違う」ということが時々起こるのは、必要な情報が共有されていないからなのですね。
そういうことも多いと思います。デザインに対する評価は、主観ですよね。つまりそこには企業側の主観とデザイナーの主観があり、さらに企業側の関係者全員の主観がある状態です。そのたくさんの主観で1つのデザインを見ることになるので、コンセプトや商品情報を共有していないと見る方向がずれてしまい、「イメージが違う」となる。ベースにずれがあると、順調に進んでいるように見えても後になって「やっぱり違う」となりかねませんよね。
ナショナルブランドの場合はそういう知見も蓄積されているので、最初からしっかり情報提供されることが多いですね。たいていの場合、最初のブリーフィングの時にマーケティング情報や関連資料、ブランドの歴史やブランドコンセプトなどが書かれたブリーフィングテンプレートなどが既に用意されています。
資料は必ずしもなくても構いませんが、同じ方向を向いてものを作っていくためには背景やコンセプトの共有が大切です。たとえば提案されたデザインがイメージと違ったから変えてほしいという時も、その背景をきちんと説明すると良いと思いますよ。
ーどのように説明すれば良いのでしょうか。
まず、「なぜ」を説明すると良いと思います。たとえば、赤いデザインを提示した時に「青が良かった」ということがあるとしますよ。そこで重要なのは、「なぜ青にしたいのか」という情報です。好き嫌いも当然あると思いますが、「コンセプトと合わない」「過去にこのようなデザインにしたことがあったけれどうまくいかなかった」といったこともあるかもしれませんよね。理由がわからなければまたイメージに合わないものを作ってしまうかもしれませんので、「なぜ」というのは大切な情報です。
ただその時に忘れてはいけないのが、私たちが取り組んでいるのはビジネスのためのデザインであって、壁にかける水彩画ではないということです。つまり、ビジネスツールとしてどうなのかという評価をすべきということですね。
―ビジネスツールとしてのデザインですか。
そうです。デザインを、美しいか、かっこいいかといった視点ではなく、自分のビジネスのツールとして評価するということです。たとえば、流行のデザインは時が過ぎれば古いデザインになってしまいますよね。頻繁にデザインを変える商品パッケージであればそれもいいかもしれませんが、そうでない場合は時代に左右されないタイムレスなデザインの方が長く使えます。ブランディングやデザインを考えていると、いつの間にか当初の目的を忘れて目の前の流行にとらわれてしまうことがあるので、その視点は忘れないようにいつも心がけています。
―ブランドを育てるというのは長い時間をかけることですので、なおさら途中で目的を忘れて道を外してしまいやすいのかもしれませんね。
おっしゃる通りですね。そしてもうひとつ、その企業の強みと弱みを把握して、強みを活かして弱みを補うという視点も大切にしています。競合他社が新しいことを始めると、自分たちもそうしなければとつい考えてしまいますが、必ずしもそこに挑むのが正解とは限りませんよね。他社に挑むことよりも、自分たちの強みを活かして独自性を打ち出す方が大切な場合もあります。それが根底にあるコンセプトであり、自分たちの立ち位置ですので。
―グラビティーワンにデザインを依頼される企業の皆さんは、明確なコンセプトをお持ちなのでしょうか。
コンセプトが明確になっていることもありますし、そうでないこともあります。コンセプトがあるけれど私たちに話す必要がないと思って話していないこともありますし、コンセプトがないと思っていても、実は根底にあるのに気付いていないだけということもありますね。そういう時は、話を聞いていくと、どういうコンセプトなのかが見えてきます。
―では最後に、亀谷さんが今後ブランディングを通じてどんなことを実現したいかを教えてください。
抽象的ですが、人々が楽しめる社会を作るためのお手伝いをしたいと思っています。
アメリカで働いていた時にボスが言っていたのですが、激安スーパーに停まっているのはボロボロの大衆車だけではなく、時には高級ベンツが停まっていることもありますよね。高級ベンツに乗っている人は高級店にしか行かないのではなく、激安スーパーにも行くということです。ベンツの持ち主が「買い物はスマートにしたい」と考えていて、スーパー側も「ここに来る人はスマートですよ」というブランディングをしていれば、合致するので両者がハッピーになります。
ブランドはチョイスですから、好きなものを選んで楽しめばいいわけです。固定概念をなくし、ブランドや商品の本質をきちんと見つめてブランドを作り上げていくこと。それが私のやっていきたいことです。そうすることで、人々が楽しめる社会を作る一助になれたら嬉しいですね。
グラビティーワン株式会社では、ブランド戦略についてのご相談を受け付けています。15年にわたって一橋ICSで講義を務めた亀谷が、貴社のブランド戦略をお手伝いしますので、お気軽にお問合せください。