【ブランディングの基盤となるのは全体設計】グラビティーワン亀谷が語るブランドアーキテクチャの重要性
ブランディングを進めるにあたって、コーポレートブランディングから始めるべきなのか、まずは商品ブランディングだけでスタートしても良いのか、迷うことはありませんか。 もしくは、個々の商品ブランディングを進めてはいるものの、全体の統制が取れなくなってきたという課題を持つ企業もあるかもしれません。
その場合は、もう一度原点に立ち返り、ブランドの全体設計をすることが重要です。 前回の記事では、グラビティーワン亀谷が、ブランドエクスペリエンスについて語りました。今回は前回に引き続き、ブランドの全体設計、ブランドアーキテクチャについて語ってもらいます。
グラビティーワン株式会社
代表取締役・クリエイティブディレクター
亀谷 勉
―今回は、近年ブランディングでよく話題にのぼる、ブランドアーキテクチャについて聞かせていただければと思います。まず、そもそもブランドアーキテクチャとは何でしょうか。
アーキテクチャというのは、設計ですよね。ブランドアーキテクチャとは、ブランドの全体設計をしましょうという概念です。
ブランドには、企業のブランドと商品のブランドの大きく2種類がありますので、それらをどのように整理して世の中に見せるのかを考える必要があります。そこで、まずはきちんと整理して全体設計をしましょうというのが、ブランドアーキテクチャの考え方です。
―ブランディングにおいては、まず全体設計が重要なのですね。
ものごとを始めるとき、目に見えている枝葉が気になってそこから始めてしまった経験はないでしょうか。しかし本当は、枝葉の前にまずは木を作る必要がありますよね。それが、ブランドアーキテクチャの考え方です。
ただ実際には、最初からしっかり設計するのは難しいと思いますよ。ですので、まずは枝葉のブランディングから始め、進めていくうちに企業内が混乱したら、そのタイミングで全体設計に取り組むケースが多いですね。
―会社のブランドと商品のブランドは、紐づけて世の中に認知してもらうべきなのでしょうか。
それは、その企業の戦略によりますね。商品ごとに単体で競合他社に挑むよりも、それらを全部束ねた会社として認知してもらう方が強いブランドにはなりますが、商品単体で認知してもらう方が良い場合もあるでしょう。
例えば日本の自動車メーカーでは、メーカー名と車種名の両方が広く知られていて、どの車種がどのメーカーかも認知されていますよね。これは、企業のブランディングと商品のブランディングを両方行い、紐づけている事例です。この場合は、宣伝費もそれぞれかかりますので、費用がかさむというのが課題です。
一方海外の自動車メーカーでは、メーカー名でブランディングをして、車種名をつけずにAクラス、Bクラスのような呼び方をしている事例がありますよね。この場合は、国産車と違ってメーカーのブランディングをするだけなので、車種ごとにブランディングをするより費用がかからないというメリットがあります。
もう一つ例を挙げてみましょう。
例えば、自動車メーカーではなく家電メーカーが電気自動車を開発したとしましょう。それがどんなに良い自動車だとしても、家電メーカーと自動車というのは結びつきにくいので、最初からメーカー名を前面に出さずに車種名だけで宣伝した方が良いかもしれませんよね。
つまり、全てはビジネスの戦略なのです。ブランド戦略は大きく4パターンに整理できますので、どれを採用すると最も売上を伸ばせるかを考えてブランディングを進めていくということです。
―ブランド戦略の4パターンとはどういうものなのでしょうか。
ブランド戦略は、以下の4パターンに整理することができます。
- ● マスターブランド戦略
- ● サブブランド戦略
- ● エンドースドブランド戦略
- ● インビジブルブランド戦略
1.マスターブランド戦略
マスターブランド戦略というのは、マスターブランド、つまり主となるブランドのみをブランディングするという戦略です。自動車メーカーの事例でいうと、車種名をつけずに車種を記号で分類する海外メーカーのようなパターンが当てはまります。
- ● マスターブランド(メーカー)+記号(Aクラス、Bクラス等)
- ● マスターブランド(メーカー)+カテゴリ(クーペ、スポーツモデル等)
このパターンの場合はそれぞれの車種に固有名詞がなく、マスターブランドが全ての商品を抱える格好になっていますので、マスターブランドのみをブランディングすれば良いということになります。つまり、一般消費者には「こういう車を作っているメーカー」と認識されればそれで十分であり、AクラスとBクラスの違いは、乗っている人やこれから購入する人だけが分かれば良いという考え方です。
この戦略には、マスターブランドのブランディングのみに注力できるというメリットがあります。例えば、企業と商品の両方をブランディングする場合はそれぞれにお金がかかりますが、マスターブランド戦略ならそのお金を全てマスターブランドのブランディングに使えるので、より強いブランドを作れるというメリットがあります。
2.サブブランド戦略
サブブランド戦略というのは、マスターブランドとサブブランドの両方をブランディングし、紐づける方法です。国産自動車メーカーの事例が当てはまります。
- ● マスターブランド(メーカー)+サブブランド(車種)
このパターンの場合は車種にも固有名詞があり、マスターブランドは「こういう車を作っているメーカー」、サブブランドは「こういう特徴のある車」として認識されます。マスターブランドの下にサブブランドが家系図のように広がっていくイメージですね。
3.エンドースドブランド戦略
エンドースドブランド戦略というのは、企業が商品ブランドを支える(=エンドース)形で展開するブランド戦略です。つまり、消費者には商品だけを認知してもらえば良いので商品のブランディングのみを行いますが、企業がその品質を保証するという形で支えているわけです。
例えば、お菓子のブランドを数多く抱えている海外企業などで、このような戦略をとっているケースがあります。
4.インビジブルブランド戦略
最後が、インビジブルブランド戦略です。インビジブルというのは、透明、見えないということですよね。つまり、企業を表に出さずに商品のみをブランディングするということです。エンドースドブランド戦略の場合は、企業を前面に出してブランディングすることはしていませんが、企業名を消しているわけではありません。対してインビジブルブランド戦略では、企業名を消して商品のみをブランディングします。
商品名は知っているけれど、どこの会社が作っているかは知らないという商品があるとすると、それは企業が何らかの意図を持って企業名を表に出さず、商品名のみでブランディングしている事例です。例えば、もともとお菓子と関連性のなかった企業がお菓子のブランドを作った場合、企業名を出してもイメージアップにならない、あるいは逆にイメージダウンになってしまうということで、あえて企業名を隠すことがあります。これが、インビジブルブランド戦略です。
ーブランドの全体設計をする場合は、まずこの4つのどれにするかを決めるところからスタートするのですね。
そういうことです。ただ、こういう戦略はもちろん大切なのですが、ブランドの根本は結局「お客様に喜んでもらう」という点にあると思っています。商品が売れるというのは、お客様に喜んでいただき、その対価としてお金をいただくということですよね。ですので、ブランディングの根本は、お客様の喜びを作り出すことなのです。
4パターンのどの戦略を採用するかというのは、つまり、「お客様に喜んでもらうためにはどのブランドを覚えてもらいたいのか」ということを意味します。自分たちが売りたいという視点ではなく、「お客様に喜んでもらいたい」という視点で戦略を決め、企業とお客様とのつながりをしっかりデザインしましょうというのが、ブランドアーキテクチャの本質なのではないでしょうか。
前回、今回の2回にわたり、グラビティーワン亀谷がブランディングについて語りました。
グラビティーワン株式会社では、ブランディングについてのご相談を受け付けています。ブランド戦略の策定から、ブランドコンセプト作り、インナーブランディング、ロゴデザイン、パッケージデザインまで、15年にわたって一橋ICSで講義を務めた亀谷が貴社のブランディングをお手伝いします。まずはじっくりお話を伺いますので、ぜひお気軽にお問合せください。